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137 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/08(木) 20:06:57 ID:OK1DK0Me
5月28日日曜日午前9時2分自宅マンション前。隣にはVTR、そしてその前をウロウロする悠太がいた。

先週約束したとおり、奈津美と奥多摩に行く約束だ。本来はマンションからはなれた場所が待ち合わせ
場所としたかった悠太だったが、昨夜の電話で“ユウ君の家の前がいい”という奈津美に押し切られた形で
ココになってしまった。

落ち着きを失っている自分に気がついた悠太は、一度立ち止まってみることにした。

・・・。

ダメだ・・・緊張する。
連れて行くとはいったものの、美咲以外の女とツーリングするなんて正直初めてだ。
・・・・たかが案内じゃないか。冷静に、普通に、案内しよう。・・うん。普通だあくまで普通だ。
てか今日は案内なんだったらこのツナギ・・・気合入れすぎたな^^;
・・・・脱ぐか・・・・脱ごう・・・あぁいやいやいやもう時間ねーな。何考えてんだ・・・・うん。待とう。
うんうん・・。

などと考えながら、再びそわそわウロウロしていると通りの向こうからプワーンプワンップワーンという
REV機構とP管の独特の排気音が近づいてくるのが聞こえた。奈津美に違いなかった。

(以下省(ry

149 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/09(金) 01:51:31 ID:4N6XOIRp
マンションの玄関から、通りに出て音の方向をふり向いてみると、思ったとおりあのCBR400Fだ。
しかし三段シートも取っ払われセパハン・ビキニカウル仕様になっているCBR400Fは珍走車の面影はない。
ライダーもレプソルホンダのツナギ、ヘルメットはなんとマックス・ビアッジモデル。明らかに奈津美の印象と違うが、
細身の体のラインと、何よりあのシフト時の特徴のある”ダブルアクセル”が奈津美である事を物語っていた。

マンションの玄関から出てきた悠太を見つけると、彼女は左手を振り目の前につけた。目の前で見ると、
グローブ、ブーツもアルパインスターのレースユースモデル。本格的だ。俺の装備よりいいぞ・・・。

そんな事を考えていると、目の前でヘルメットをはずす彼女。髪をかきあげ顔を上げて微笑む。
やはり奈津美だった。髪を切ったようで、あの長く美しい黒髪は肩より短くなっている。ウルフスタイルか。
ウルフにしてるわりには・・・ワイルドというより何だかより幼くなったように見えるがやっぱりカワイイ。

奈:『おはよう、ユウ君!』
悠:『あぁ、おはよう。ツナギなんておどろいちゃったよ。なんか会う度に印象が変わるなw』
奈:『えへへ^^・・・似合う?おにぃちゃんの昔の友達に頼んで探してもらったのw』
悠:『うん、よく似合ってるよ。ただソレでまた立ちゴケでもしたらホントかっこわりぃなw』
奈:『うぅ〜・・・意地悪〜。もうしないよ!』
悠:『わりぃわりぃ冗談だよ。』
奈:『えへへ^^したら、また助けてくれるよね?』
悠:『おいおい^^;;;』

たわいも無い話をしていると、奈津美の突拍子も無い発言がまた飛び出した。
(以下(ry

186 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/12(月) 14:36:58 ID:UYTvbuOI
奈:『あ、そうだ。実はねおにぃちゃんの友達も来たいって言ったから連れてきたの!』
悠:『  は  ?  』
ぽかーんとする悠太。
女の子と二人きりのツーリングを心から楽しみにしていたわけだが思わぬ形で野郎が乱入するとは本当に想定外だ。

悠:『ちょ、ちょっと、あの今日は二人の約s・・・』
奈:『どうしたの?まずかったかな・・・?』
不安におもったのか、さえぎって奈津美が言う。
どうしたのじゃねーよ・・・まずいですまずすぎますよ。まぁ今までのことからコイツなら想定に入れておくべきだったか。
悠太は心の中で軽く舌打ちすると、平静を装い形ばかりだが笑顔で答えた。
悠:『まぁ別にOKだけどさ。だれだれ?』
奈:『あれ!あの人!』
奈津美が指差す方向に、いかにも峠小僧という風合いの才谷屋製の白ゲルFRPカウルに黒アッパー
のNC30(VFR400)に跨り、奈津美が来た方向から走ってくる青年(少年?)。音からして、エトスのSP-FORMULAか。
根っからのホンダV型エンジンのファンである悠太に、今はどうでもいいことが頭をよぎる。

おいおい、野郎かよ。まぁいっか。奥多摩は何時も野郎とだし、一人増えたところでまぁかわらん。

近くに来て、奈津美のCBR400Fの後ろに止める。猫耳ディフューザー付きのメットごしにペコっと会釈をする。
ミラーシールド越に顔は見えないが、悠太も返す。

しばらくするとメットをはずした。サラサラの茶髪が広がる。悠太は驚いた。

こいつ、おんなだ!

187 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/12(月) 14:40:55 ID:UYTvbuOI
文章が雑ですね。
×奈津美が来た方向から走ってくる青年
○走ってくる青年

192 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/12(月) 16:53:59 ID:UYTvbuOI
茶髪のショートカットで、年頃は24〜26といったところか。すらっとした肢体、釣り目気味の涼やかな目元、
ボーイッシュな風貌のその美人からは峠小僧的趣味から無縁そうな感じを受けた。
が、格好はやはり峠小僧、しかも男ばり。男装の麗人、という言葉がぴったりかもしれない。バイク好きの宝ジェンヌか?

オスカル〜、アンドレ〜・・・と、わけの分からない妄想に悠太がトリップしていると
顔を覗き込むようにして彼女が言った。

?:『あの、こんにちわ。わたくし、奈津美ちゃんの“友達”の、園田麗子と申します。』
悠:『・・・・あ、あぁどうもです。』
握手を求められたので、おもむろに握手をする。もしかして、ちょっとキザっぽい女?

麗:『奈津美ちゃんがお世話になったみたいですね、上原さんのお話は彼女から聞きしました。』
悠:『いやぁ、大した事じゃないですよ・・・w』
良く見ると、柴咲コウと蛯原友里を足して二で割ったような風貌で明朗快活という感じある。
天然で子供っぽい性格の奈津美とは真逆だし、同じ男っぽいでもどっかの美咲とは違い格段に知的な印象を受ける。

ふと横を見ると、ふるふる首を振り
奈:『命の恩人です!そして、大事な人・・・友達です!先輩です!』
と、奈津美が訂正していた。

するとその女性が、ふふ、と笑い
麗:『奈津美ちゃんにこんなに好かれるなんて、上原さん凄いですよ?w』
悠:『そうなんですか?』
麗:『この子、結構人見知りだし“あの事”があってから人にあまり心を開いた事がありませんでしたから。』
麗子が小さな声で奈津美に聞こえないように耳元で言った。奈津美は?な顔でそれを見ているので、とりあえず笑っておく。
奈津美もえへへと笑う。ふと気がつき時計を見ると、午前9時半近くになっていた。

悠:『とりあえず、行きますか奥多摩!』
麗:『はい、よろしくお願いします。』
奈:『お願いしまーす!』
二人の声が続いた。

194 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/12(月) 17:00:30 ID:UYTvbuOI
orz

×するとその女性が、ふふ、と笑い
○すると麗子が、ふふ、と笑い

195 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/12(月) 17:30:04 ID:UYTvbuOI
早速乗車準備をする。奈津美はそそくさとCBR400Fに跨りエンジンをかける。
麗子は、NANKAIのロスマンズカラーのツナギを上半身だけ脱ぐと袖をウエストで縛った。
気温が上がり暑くなってきていたのだ。悠太も気がつき、上だけ脱ぐ。

上を脱いで麗子のようにウエストで縛ると悠太もVTRに向かいキーを挿す。イモビの認識音が響く。
が、ココで中型二台に大型のVTRで行くのは何となく気が引けてきた。
セカンドのRVF400を思い出した。奥多摩行くときはアレがやっぱメインだしアレで行くか・・・。
くるりと向き直り、二人に言った。

悠:『やっぱりバイク換えてきます。ちょっと待っててもらえます?』
奈津美は、うんうんと頷き、麗子はメットをしながらも、わかったよと左手を上げた。

玄関の前から、正面左横の駐車場にVTRを押していき、屋根付きの格納スペースにあるRVF400を
代わりに引っ張り出す。RVFには中々ないロスマンズカラーのペイントが日に反射し眩しい光を放った。
もう押していくのは面倒なので、跨ってエンジンをかける。スタンドを掃って、さぁ行こうと前を見たその時。

?:『あら、上原さんじゃないスか。今日行くんスか?待ってください一緒に行きましょうよー』
聞き覚えのある、今度こそマジで野郎の声だ。表通りからスーフォアVTECに跨るライダー。近所の工房、斉藤拓哉だ。
奈津美、麗子にも気がついたらしく、前を向いてペコペコした後こっちをみてニヤリと笑った。

一気に萎えた。お邪魔虫め〜空気読めよ・・・下を向いて落胆する悠太に、生来鈍感な拓哉が気がつくはずもなかった。

209 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 02:59:02 ID:djwvC0a/
斉藤拓哉。18歳。さっきも言ったとおり、バイク好きの近所(青梅市新町)の高校生だ。
身長は156cm体重50kgと、はっきり言ってチビッコである。通称は岡村隆史or猫ひろし。
チビッコと言うとキレるので頻繁に美咲に苛められている。

口が上手く、しゃべり上手なので知り合いが多く、何時もダレかしらとつるんでいるようなヤツである。
誰とでもすぐ話せ人見知りしないのがヤツの長所だが、喋り過ぎるのがアダでもあった。

拓哉と出会ったのは一昨年の夏あたりで、まだ拓哉がNS-1で奥多摩に通い出した頃だった。ライン取りも何も
考えないで道のど真ん中から突っ込んで行き、突っ込んだら今度はセンターラインに寄りまくる、コーナー出口で
アウトに膨らむというド素人走りを見かねた悠太が、呼び止めて丁寧に教えてあげたのが縁だった。この日を境に
平日休日問わず悠太宅に実家のように勝手に上がりこんできては、美咲にケツを叩かれ小一時間苛められた後
長話をして帰る。そんな妙な間柄になってしまった。

メカやライディングに詳しい悠太を心底慕っており、“師匠”“上原さん”などと呼び、奥多摩に行くときも良く行動を共にする。
というか、勝手にくっついて来る。実家が酒屋なので、気を使う親御さんがたびたび大吟醸やビール1ケースを拓哉に託して
は悠太に持ってこさせる為、たまに鬱陶しく感じる事もあったがこのお陰でまんざら悪い気もしなかったりもした。

今日は邪魔されなくなかったんだがなぁ。コイツ・・・まぁいいか。

通りに出て行くと、玄関前の通りにいる奈津美と麗子に早速声を掛けていた。

“今日天気いいすねー。どっからきたの?名前は?あぁゴメンゴメン、オレ拓哉。斉藤拓哉って言います!
ヨロシク!え?奈津美ちゃんと麗子さんって言うんだ?あれ、なっちゃんドコ高スか?南多摩?すげーオレさ・・・”

質問や雑談がまさしく矢継ぎ早に飛んでくる。マシンガンだ。
奈津美は、困った様子で下を向いてモジモジしては、時よりこくりと頷いたり首を横にふるふる振って見せた。
反面、麗子はこの“お喋りなガキ”にも涼やかな笑顔を浮かべ、しっかり対応して話をあわせている。

流石だ麗子さん・・・。悠太はまだ出会って数分の麗子に妙な尊敬を抱いた。

211 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 03:40:12 ID:djwvC0a/
悠:『おいおい・・・あんまり二人を困らせんなよ。』
拓哉を目の前に、明らかに困惑している奈津美とそろそろ話しに飽きてきているであろう麗子に
助け舟を出す形で悠太が言った。

拓:『えww困ってなんかないよね、奈津美ちゃん、麗子さん?それにほら、もう奈津美ちゃんとはこんなに仲良しスよ!』
無論気がつくはずのない拓哉は、ヘラヘラと笑い奈津美の横に並び肩を叩こうとした。

刹那、拓哉の手をするりと軽快にかわした奈津美は、素早く悠太の後ろに隠れた。

どこがだ。
悠太は心の中で突っ込んだ。

拓哉がちょっと寂しそうに、かわされたその手で頭をボリボリと掻く。
それを麗子がくすくすと笑う。一緒に拓哉が豪快に誤魔化し笑いを始める。
一応悠太も笑っておいた。

悠:『奈津美、アイツ五月蝿いけど悪いやつじゃないからwオレの後輩だよ後輩。』
奈:『ユウ君の後輩・・・?うん、わかった。』
そういうと、後ろからちょこちょこ出てきて悠太の横に立った。依然伏目がち。

拓:『ん?ユウ君って?・・・あのー、師匠なっちゃんとどういう間柄なんスか?もしかして、彼女?』
寂しそうな顔から一転、好奇心の塊のような表情で聞いてくる。
悠:『バカっ、んなわけねーだろ。ちょっと、な。』
悠太は普通に答えたが、横の奈津美は真っ赤になってちょっと嬉しそうにも見えた。

拓:『ちょっと、って・・・・援交?』
悠・奈:『ぶ っ 飛 ば す ぞ 。』
拓:『すいません!!』

そんな茶番を繰り広げていると、麗子が先ほどのクールな笑顔を浮かべ言った。
麗:『時間も時間ですし、そろそろ行きましょう。ねっ?』
再び時計に目をやると9時45分だった。それに促され、悠太たちは自分たちのバイクに跨り出発の準備をした。

212 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 05:23:24 ID:vfkZfBSB
おかしい、絶対におかしい。最初奈津美との間だけの約束だったはずだ。なんで桃太郎みたいにワケの分からん
仲間が増えていく・・・orz。可愛らしい犬が奈津美で、美人の麗子さんが雉。拓哉は絶対エテ公だなwww
そんな事を考えているとメットの中で吹きだしていた。

すでに自宅前を出発し、青梅街道を奥多摩に向け西に向かっている。普段ならR411をいいペースで飛ばして
行くのだが(勿論、地元のなのでネズミをやってるところは知っている)、一応女の子がいるという事で控えめで
先導した。千ケ瀬5の信号を右折し旧青梅街道〜R411に入る。手書きの映画看板、古ぼけたJR青梅駅、田舎
の町並みが流れる。

バックミラー越しに奈津美を見る。肩に無駄な力が入っていなくて、自然なフォーム。サマになってるし、立ちゴケして
いたくらいだから心配だったが、これなら大丈夫そうだ。麗子さん、何にも問題なし。拓哉も大丈夫。

R411に入り、青梅1中前を通り過ぎたあたりから少しにペースを上げた。日曜という事で混んでいるが、道幅があるため
簡単にすり抜けが容易に出来る。空いた左側をすり抜けると、悠太は何時もどおりおもむろに左手を上げた礼をした。
皆後に続く。

JR宮ノ平駅前を過ぎた。ココから先は、割と緩いカーブと直線の連続だ。
天気が良い日曜日、空はただただ深く、青く、高い。見上げると雲が飛島のようにぽっかりと浮かび太陽がさんさんと輝く。
西の方角に目を移すと御嶽の山々が見えた。初夏の新緑に青く萌える山々。大きくたたずみ、偉大さすら感じる。
それにしても、Tシャツを通る風が本当に気持ちがいい。“風になった気分”ってこういうことを言うのだろう、今更だが
何となくそう思った。だが、それがバイクに乗っていて一番最上の幸せを実感する瞬間であったし、皆にもそうであって欲しかった。

213 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 05:31:00 ID:vfkZfBSB
朝一で奥多摩に行ってきた峠小僧やライダーとすれ違う。時より、悠太に会釈をしたり左手を挙げるライダーがいた。
その様子を、不思議そうに見る奈津美。バイク事情に詳しい麗子と拓哉はそれが何故だか知っていた。
走り屋チームに属するわけでもなく、一匹狼だったが悠太は奥多摩では有名人だった(奥多摩だけではないかもしれないが)。

−−それは正しく、“神業”だ。
極端な斜め前乗りのハング、ハイリスク承知の限界近くのフロント加重を扱い、常に全開にし続けてリアのパワースライドを
用いた向き換えを操る独特のライディングはまさしく彼しか出来るものはいなかった。そして、それは美しかった。
独特のライディングが唯一無二の天才と言われたあのフレディ・スペンサーのライディングを彷彿とさせる事から
“奥多摩のファスト・フレディ”“奥多摩の魔物”“ミスター・ファステスト”の異名をとった。過去〜現在を通じて小僧、大人区間
と彼の右に出るものは決していなかったのだ。

−−ロスマンズ・フルHRC仕様の片目アッパーRVF400。そして、それを自在に操る、上原悠太という怪物。
あの関東ニコニコ会のメンツですら、諸手を挙げて悠太の追撃を諦めるほどだった。


214 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 05:39:21 ID:vfkZfBSB
奈津美には“大した事はない”と語っていたが実は悠太、GP250クラスをHRC(マシン開発のテストライダーの
為極秘とされ名目上プライベート参戦)から参戦する真のレーサーだった。2000年のデビュー以来、レースシーン
に常に彼の姿はあったが露出を潔しとしないHRCの方針で、隠れるようにサーキットに現われ、そして去り、雑誌
の取材等も受けなかった悠太の素顔は謎のままとされた。スポンサー名のワッペンが白だけの漆黒のツナギを身
にまとい、フレディ・スペンサーのようなライディングをする謎のレーサーはレース界に身を置くものなら誰もが知る
存在となった。

2004年からはST600クラスに転向、2005年シーズンには年間総合優勝を飾る。本格的なレース活動から身を引く事に
なる最終シーズンの昨年はJSB1000クラスに特別スポット参戦という形で鈴鹿、SUGO、もてぎと日本最高峰のレース
で優勝を3度決めていた。今回も、一躍話題になったがHRCの新型マシンの実践投入テストの為のライディングだった為
やはり悠太の正体は一切明かされなかった。
しかし、あの独特のライディングと背格好をみた奥多摩の小僧たちの間で、にわかに噂されるようになっていたのだった。

“アレこそ、正しく奥多摩のファスト・フレディと呼ばれる男が正体なのではないか”と。

その噂はあっという間に広まり、今では悠太があの謎のレーサーであるという事は奥多摩では定説となっていた。

そんな悠太だったが、落ち着いた現在は主にHRCの企画営業職のリーマン(兼臨時テストライダー)となり、当の本人
東京の片隅、青梅市でいたって平和に暮らし休日は奥多摩に通っていたのだった。

(以下(ry・・・寝ますorz

215 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 05:40:45 ID:vfkZfBSB
×青梅街道を奥多摩に向け西に向かっている。
○青梅街道を奥多摩に向かって西に走っている。

216 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 05:49:54 ID:vfkZfBSB
・・・orz

×一番最上の
○最上の

226 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 14:35:34 ID:TQWr8iq1
皆さんありがとうございますorz
変な表現がありますたorzorz

×諸手を挙げて

228 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/13(火) 15:02:51 ID:TQWr8iq1
何かダメですね、夜遅くに書こうとすると何時も以上に誤字脱字が多く
なります。。。

あぁ、それと申し訳ないですが明後日あたりからまた更新します。

269 :60 ◆y.kGnO1EM6 :2006/06/15(木) 22:50:07 ID:pUs2q8EQ
R411を快調に進む。途中、JR御嶽駅では親子連れやお年寄りなど御嶽山参りに向かう沢山の観光客が目に入った。
天気が良く、今日は絶好の登山日和だしなぁ。この様子だと周遊道路にもハイカーが多い事だろう。悠太はそう思った。

古里、鳩ノ巣、白丸と通り過ぎ、さらにしばらく走ると海沢大橋の交差点に差し掛かった。
奥多摩町の繁華街(駅前)を通っても良かったが、今日は特別観光でもなければ昼飯にするのも早かったので海沢大橋
交差点を左折して愛宕トンネルを使いJR奥多摩駅前を迂回する事にした。

悠太は、交差点手前まで来ると後ろを振り返ると左手で“曲がるよ”と2〜3度合図をしてみせた。

愛宕トンネルを過ぎると、いよいよワインディングロードらしくなくなってくる。後は奥多摩周遊道路までまっしぐらだが、今日は
案内がメインでガッツリ走るつもりは特にはない。なので、奥多摩湖畔の『水と緑のふれあい館』前かその先の大麦代駐車場
で一休みする事にした。『水と緑のふれあい館』は奥多摩湖のダムサイドにありそこから見える奥多摩湖は大変が美しかったし
奈津美にも見せてやりたかった。

そう、ライダー幸平も見たであろうこの景色を。

270 :60 ◆y.kGnO1EM6 :2006/06/15(木) 22:50:53 ID:pUs2q8EQ
今日のように綺麗に晴れた日には奥多摩の山々の稜線と青空が鮮やかなコントラストを創り出し、眼下には広大な
ダムが広がる。まさに雄大さを感じるこの風景に、“気分爽快!”とはまさにこの事だと何度も痛感させられる。
季節はまだ早いが、夏の夕暮れには、真っ赤に染まった空と、山々の谷や尾根を越えた涼しい風が青く茂った植物の匂いと
共に頬をかすめる。やがて空はだんだんと朱から透明感のある紺へとグラデーションを強め、その一瞬の“カクテルカラー”は
息をのむものがあった。ヒグラシの声が静かに木霊する湖畔はオレンジ色に煌き、やがて煌きを失うその一瞬間でさえ、儚い
美しさを感じる。それをこのダムサイドでじっと見ていると、幼い時に味わった“忘れかけた懐かしい思い”がしたような気がして
自然に涙がこぼれた落ちた。

ここに来て目を閉じれば、自分が人間ではなくひとつの”存在”として自然の中に溶け込んで大きな意思に抱かれている気がした。
また明日から都会の殺伐とした喧騒の中でもやっていける“チカラ”を与えてくれる。
大いなる存在を感じられずにはいられない場所・ライダーの聖地。そんな不思議な魅力を持ったのが奥多摩であった。

やがて、周遊に入る最後のガソリンスタンドである清水燃料株式会社奥多摩営業所で給油を済ませるとすぐ横のダムサイド入り口への
上り坂を上がり『水と緑のふれあい館』に到着した。

(以下(ry

273 :60 ◆y.kGnO1EM6 :2006/06/15(木) 23:31:40 ID:pUs2q8EQ
『水と緑のふれあい館』前の大きな駐車場にバイクをとめる。何台か10台ほどのマスツーの
ライダーらしき集団が何組か見られた。おそらく大麦代にも相当数のライダーがいると思われる。
(大抵走りに来ている連中はこちらで雑談や盆栽談義に花を咲かせている)

奈:『ふぅ・・。』
息をつき、レプリカメットをはずす奈津美。
後ろを見ると、拓哉と麗子はもう雑談を始めている。といっても拓哉の一方的なお喋りであるが。

悠:『疲れた?』
奈:『ううん、大丈夫だよ^^』
悠:『たぶんココ幸平さんも来たとこだと思うんだよ。』
奈:『うん、おにぃちゃんも景色の事良く私に教えてくれたよ。特にダムサイド
  から見る景色がとっても綺麗だって・・・。何度も来たくなっちゃうって。』
目を細めて懐かしむように語る奈津美。兄の訪れたであろう地に立った感慨に浸って
いるのかもしれない。

悠:『そっか。じゃあ、俺が一番綺麗だと思うお気に入りの場所案内してやるよ。』
奈:『うん^^』
悠太が駐車場を出て目の前道を渡ると、奈津美もぱたぱたとついてくる。
道の反対側にはダムサイドを展望できるベンチがあった。

歩いていくと、大きなダムがだんだんに見えてきた。
やはり今日の湖畔は美しかった。目の前にとても東京の一部にあるとは思えないような大自然が広がった。


274 :60 ◆y.kGnO1EM6 :2006/06/15(木) 23:32:44 ID:pUs2q8EQ
×何台

275 :60 ◆y.kGnO1EM6 :2006/06/15(木) 23:34:43 ID:pUs2q8EQ
×10台ほどのマスツーのライダーらしき集団が何組か見られた
○10台ほどのマスツーらしき集団が何組か見られた

申し訳ないorz

279 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 00:03:59 ID:tWF/ySWw
奈:『うわぁ〜〜凄い!』
大きな声でそう言うと、顔をこっちに向けてえへへと微笑む。
本当に嬉しそうだ。

悠:『喜んでもらえてよかったよ。』
奈:『うん、何もかも青くて、キラキラしてて、とっても綺麗・・・。』
そういってしばらくすると静かになった。

悠:『・・・?』
横を見ると、奈津美が静かに目を閉じている。
初夏の風が彼女の髪をゆらす。ほのかに女の子らしい香りが初夏の風にのり、悠太に届いた。

“なんて神秘的な表情をするんだろう、この子は”

考えてみれば、この子は俺と出会ってから実にいろんな表情を見せてくれた。
だけど無表情というか、何もない“素顔”は今の今まで一度も見たことなかった。
ただ一度だけ似た経験をしたといえば、一番最初のこの子に魅かれた時の感覚と似てる。
まだその前にも一度味わった気がするが、このときは思い出せなかった。

自然と穏やかで優しい眼差しを向けている自分に、悠太は気がついた。
今俺はもの凄くキスをしそうな気分かもしれない・・・ふとそんな考えが浮かんだ。
奈津美の口元を見つめる。白い肌に、柔らかそうな唇。
まだ恋人同士でもなければ、そんな気を起こすつもりはなかった筈だが
この衝動はもう止められそうにない。

・・・奈津美を引き寄せようと両肩に手が掛かろうとしたその時。

遠くから能天気バカの声がそれを不意にかき消した。

拓:『師匠〜、なっちゃーん!ジュース飲みます〜?俺買ってきますけど?!』
奈:『なっちゃんってなれなれしく言うな!チビ!!』
奈津美の言動にも驚きつつも、またしてもこのお邪魔虫にちょっとした殺意を覚えるのであった。

280 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 00:06:26 ID:tWF/ySWw
×ほのかに女の子らしい香りが初夏の風にのり、悠太に届いた
○女の子らしいほのかな香りが、悠太に届いた

一々訂正ホントすいません、読み直しが足りないようですorz

283 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 00:44:22 ID:tWF/ySWw
さっきの駐車場へ戻る。さっき拓哉に瞬間的に殺意を覚えたが、その考えは変わっていた。

もしあそこでキスしてみろ。いくら奈津美でも、嫌われて変態扱いされるかもしれないし、この後
気まずい関係にでもなったら今日が最悪な一日になるところだった。
いや、もし仮にあのまま上手くいったとしても、真昼間観光地で、しかも思いっきり公衆の面前で
キスってどんだけおめでたい奴なんだよ・・・。麗子さんだっているし拓哉なんぞ見られたらもう
この世は終わってた。つまり拓哉は疫病神でもあり救いの神でもあるというわけか・・・。
なんかとてつもなく厄介な奴だ。

駐車場の縁石に腰掛けて好物のドクターペッパーを口に運ぶ悠太はそんな事を考えていた。
奈津美は道を渡ったさっきのベンチのほうで、拓哉の話を聞くとも聞かぬともつかぬ表情で
相変わらず湖畔を眺めている。

そんな様子をぼーっと眺めていると、缶コーヒーを手にした麗子が横に腰掛けた。
麗:『どうしたんですか?さっきからぼーっとして。』
悠:『あぁ、いやぁ・・・陽気がいいもんだから、つい^^;;』
麗:『うそっ。』
そういって、びっと指を差された。悠太はぎょっとした。

悠:『え?!』
麗:『さっき見てましたよ。奈津美ちゃんにキスしようとしてたでしょ。』
バレてる!!悠太はこれ見よがしにテンパった。

284 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 00:45:02 ID:tWF/ySWw
悠:『そ、そんな訳ないじゃないっスか!あいつガキだし・・・ほら俺さ・・』
麗:『うふふ^^いいんですよ、男の人としてある意味正常な反応です。』
手の早い男だと思われているのだろうか。一瞬むっとする。
もうバレている様だが、このままこの話題を引っ張られるのもしゃくに障るので話題を換える事にした。

悠:『麗子さんは、奈津美からは幸平さんの友達だって聞きましたけど、さっきは奈津美の友達
  っていってましたね。どういうことですか?』
麗:『あぁ、今はそうですね。幸平さんが生きていた時は幸平さんは・・・』
ここで口ごもった。その目がとても悲しそうなモノになっていた。訳ありのようだ。

麗子さんは、恐らく幸平の元彼女だ。きっと奈津美と同じくらい、もしかすると愛する人を失った意味では
奈津美よりつらい思いをしたかもしれない。そのくらいの事は、悠太にも容易に想像できた。だからそれ以上
の事は詮索する事を避けるのが最善の道であると思った。自分から話題を振ったのだが悪い事をした。

悠:『言いにくい事ならいいんですよ。変な話題ふってすいません。』
麗:『・・・ごめんなさい、うふふ^^大丈夫です。終わった事ですから。私と結婚するはずの彼氏だったんです、幸平さんは。』
制止したつもりだったが、彼女は語っていた。さっきの涼やかな笑顔と共に。

290 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 01:14:11 ID:tWF/ySWw
麗子からの幸平に関する情報は、奈津美のモノとほぼ同じ内容を聞いた。ただ、違うのはフィアンセであったと言う
立場での語り方だった。終始穏やかな顔で語っていた。奈津美は、事の顛末(幸平の死に関する部分)になるとすぐ
泣いてしまっていたが、この人はもう心の中で整理がついている様子だった。

ただ、それが返って苦しかった。自分にもし恋人がいて、その人を失ったらどんなに辛いか、どんなに寂しいか。
それをこの人はリアルで経験した。しかも結婚3ヶ月前という時に・・・なんて過酷な現実なんだろう。
それを想像し、それを笑顔交じりで語る麗子を目の前にしたときとてつもなく胸が痛かった。何でこんなに気丈に
振舞えるのだろうか。自分には無理だ。

こういう時どんな言葉をかければいいんだろう、悠太は悩んでいた。
麗:『・・・だから、私今日久しぶりに奥多摩に来ようって思ったんです。』
不意に言う麗子。

悠:『え・・・・?』
麗:『過去とは決別したつもりでした。だけど、こうして彼が亡くなってから彼の思い出の地を
  訪れる事は出来なかった。今日奈津美ちゃんからたまたま聞いて、それでコレを機に奥多摩
  に来られたら、またヒトツ過去を乗り越えられる気がしたんです。』
少し時間が空いた。悠太が次に続ける言葉を探していたからだ。思いつかなかった。するとまた
麗子が口を開いた。

麗:『ありがとう、上原さん。』
微笑んで、コチラに向き直って礼を口にした。

悠:『いや、俺は何もしてないですから・・・』
それしかいえなかった。

そこまで喋り終えると、さてという風に立ち上がり尻をはらうと
麗:『じゃあ、周遊向かいましょうか!』
悠:『えぇ。』

296 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 01:58:01 ID:tWF/ySWw
ココの駐車場を出たのが、午前11時45分だった。途中大麦代駐車場の横を通ったが案の定ライダー
でごった返していた。休憩場はさっきの場所がまだましで正解だったようだ。

ココから奥多摩湖畔を通る本格的なワインディングロードが続く。まだ周遊道路までは少し距離があるが
湖畔を通る道の為、ウネウネとした道が続く。最初ペースを落として走ろうかと思ったが、出る間際に麗子
から“実は奈津美は結構走れる”という事を聞いたので少しペースを上げてみた。

いいペースで走っているのだが、奈津美、麗子ともついて来ている。無駄のないブレーキングにバンク。
なかなかいい走りをする。これなら周遊で走ってもある程度大丈夫そうだ。むしろ、相変わらずセンターに
寄りすぎるところなど拓哉の方が危なっかしいか。

しばらく走ると、R411を左折し深山橋に差し掛かった。ココをわたって左折すればもうそこは周遊道路の
入り口、旧奥多摩料金所跡だ。
その手前の湖畔に“陣屋”という蕎麦屋があった。田舎風の民家(宿)をかたどったおしゃれな感じのお店。
“ある理由”により、ここで飯を食うのははっきりいって気が引けた。が、腹も減ったし別にガッツリ走りに来た訳
ではないのでここで昼食にする事にした。金がないと言い張る拓哉は、一人イレブンの弁当を用意していた。
店のおっちゃんに気を使い、一人外で食う拓哉。蕎麦くらいならおごってやればよかっただろうか。見かねた
おっちゃんが中に入りなよ、と声を掛けたが“いいですよ〜”と言って入ろうとしなかった。
変なところが遠慮するのがコイツでもあった。


297 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 01:58:46 ID:tWF/ySWw
目の前の駐車場は良く待ち合わせの場所として使われるので、ツナギライダーが多いのだが、連中は
大体済ませてくるか、拓哉のようにコンビニ弁当が通常だった。
先ほどの“ある理由”とはコレだった。

ツナギで来店する人は滅多にいないので、大きなガラス窓からはいいさらし者だ。しかも、時間が時間
だけに顔見知りのライダー達が目の前を通る。そいつらには、女二人連れの自分の姿はどのように映って
いるのだろうか。普通に挨拶だけのやつもいれば、ニヤけて小指を立てて通るやつもいる、意外だという顔で
通るやつもいる。それが恥ずかしくもあり、ちょっとイイ気分でもあった。
共通の知り合いがいる拓哉も、通りかかるライダーライダーに手を上げて挨拶したり目の前の駐車場にバイク
と止めて店の横の自販に近づいてくるヤツに話しかけてしていた。

三人とも盛り蕎麦を頼んだ。何よりやはり奥多摩の名水で打たれた蕎麦は、コシがしっかりしており
非常に喉越しがいい。少し量が足りない様な気がするが、満足のいく蕎麦だった。

二人とも美味しいといって食べてくれたのが何より良かった。

(以下(ry
陣屋→http://plaza.rakuten.co.jp/img/user/11/42/37201142/7.jpg
陣屋の盛り蕎麦→http://plaza.rakuten.co.jp/img/user/11/42/37201142/5.jpg

301 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 02:09:56 ID:tWF/ySWw
×ワインディングロードが続く
○ワインディングロードである。

おかしい・・・読み直したんですが。
今日の更新はここらへんでやめます。連投失礼しましたorz

311 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 14:33:04 ID:GStQipk7
昼食も終わったところで、いよいよ周遊道路に入る。一通り案内(流してから)してからのつもりなので、
奥多摩ゲートからとりあえずの目標地を都民の森駐車場と決めた。

都民の森までの道程には、奥多摩ゲート〜ふるさと村までの通称“大人区間”、山の上の東京都
桧原村側には浅間尾根駐車場〜数馬駐車場の通称“小僧区間”と呼ばれる走り屋の走行区間
が存在する。麗子は幸平と奥多摩に来たことがある様子なので大丈夫だろう。拓哉も一応問題なし。
やはり、初めてであろう奈津美が“峠独特の事情”にしっかり対処できるかどうかが気がかりだった。

周遊道路に入る前に、奈津美に声を掛けた。
悠:『これから走り屋の区間を2つ通るから、後ろからヤツらが来たら左ウインカー出して寄るんだぞ。』
奈:『大丈夫だよ^^オオダルミで慣れてるから。』
悠:『大垂水?峠初めてなんじゃなかったっけ?』
奈:『違うよー。奥多摩が初めてなの^^“峠のマナー”、わかってるよ♪』
悠:『そっか。なら安心だ。』
そういうと、奈津美の頭をぽんと叩いた。


312 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 14:33:41 ID:GStQipk7
皆各自のバイクに乗り、出発の準備を整えた。再び悠太のRVFが先導する形で走る。
陣屋前を出て、左折。早速奥多摩ゲートを通過する。
ここからはもう大人区間だ。駐車場の目の前で折り返す走り屋たちが目に入った。早速後ろ
につかれたので左ウインカーを出し、左による。走り屋の一団は、左手を挙げて会釈をしながら
抜いていった。

大人区間は高速コースである。平地にあり長いストレートが多い。適度なRが存在するが小僧ほどきつくない。
大型車になれば速度がアベレージ3ケタ台などごく当たり前にありえるコースレイアウトといえる。
走り屋に追いつかれては、ウインカーを出し左による。そんな事をしていると、あっという間にふるさと村前を通過。

ここからはひたすら上る。浅間尾根駐車場くらいまでは、高速レイアウトの大人区間とタイトなコーナーが連続する
小僧区間の中間のような道が続いている。初心者が流すには丁度いいとワインディングができる。

途中、月夜見第一、第二駐車場とある。ここは景色が良いのだが日曜の今日は観光客で混雑している事
が予想され寄らない事にした。案の定混んでいる月夜見駐車場を通過すると、次第に尾根の頂上付近に
近づいてくる。右を見ると、視界が開け、雲海の中に佇む奥多摩の山々がまるで浮島のように見えた。

頂上付近から都民の森まではすぐだが、途中小僧区間を通らねばならない。小僧区間は、きつめのアップヒル
コースで、複数のタイトなコーナーで構成されている。距離は短く、どちらかというと低中速コースというところか。
日曜ともなればその混雑は物凄いものがある。前にも言ったとおり、奥多摩は“関東走り屋のメッカ”である。
祝祭日は地元の走り屋、箱根からの遠征組、東京都心部、山梨方面、埼玉秩父方面、群馬方面など様々な
地域から走り屋が集結し、まさに公道サーキットと化していた。
(以下(ry

314 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/16(金) 15:07:39 ID:GStQipk7
だんだんと走り屋の折り返し地点、浅間尾根駐車場が近づいてくる。緩い右カーブを抜けると、やはり
走り屋たちでごった返していた。目の前を10秒ほどに5〜6台は折り返しているだろうか。

“コレは流石に奈津美を連れて通るのは少し考えた方がいいかもしれない”

そう悠太は判断した。しかし、ここから折り返してまた奥多摩町側に降りるのもなんなので、ここ浅間尾根
駐車場で休憩し、その後都民の森駐車場まで降りる事にする。時間も午後1時をまわっている。あと1時間も
すれば、遠征組が帰りはじめ、道が空いてくるのを悠太は知っていた。

スローダウンさせ、左の駐車場に入る。悠太の知り合いがベンチや欄干に腰掛けており、皆軽い挨拶をする。
バイクでいっぱいの駐車場の端のわずかなスペースに並べてとめると、走り屋の一人が話しかけてきた。

?:『よぉ、今日は女連れで走りにきたか?上原w』
拓:『ちわッス!総志先輩!』
総:『おう拓哉。』
悠:『あぁナベか。まぁそんなトコだわ。初めてなんで案内がメインだけど。それにしても今日も混んでるな。』
総:『うん、午前中に一見さんが2度突っ込んでてよ。下の2つめのコーナーにオイルぶちまけてったから、
  彼女らにも気をつけるように言っといたほうがいいよ。』
悠:『わかった。どうもっ。』

渡辺総志。奥多摩のチーム“疾風迅雷+(Plus)”のメンバーである。ZXR750に乗る彼は、小僧区間の世話役と
いってもいいようなヤツだった。とにかく面倒見が良い。事故処理も進んでやってくれるし、後輩たちの面倒も進んで
見てくれる。人望が厚く、拓哉も、悠太の次に世話になっている人物かもしれない。
日本体育大出身で、悠太より3個下だが、がたいのよさがそれを感じさせない存在感を放っていた。
(以下(ry

325 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/17(土) 04:23:27 ID:wexuwhRs
ついて10分ほど。駐車場の欄干に腰掛けているが、目の前の走り屋たちは一向に減る気配を見せない。
恐らく、今月の週末は天候の良い日が余りなかった為、ここぞとばかりに走りこんでいるのかもしれない。
振り返ると、駐車場の休憩所のベンチでは奈津美が、総志や悠太の知り合いに囲まれ話しかけられている。
何を話しているのかは良く聞き取れないが、気さくで優しい連中が多いここ奥多摩の走り屋達に安心したのか
少しだけ饒舌な奈津美の姿がそこはにあった。

また目の前の小僧区間に目をやる。
一人全開のZXR750の放つ鋭い高音が、小僧全体に轟いていた。その後ろを必死に追走するCB400。
下りの第一コーナーから見る見る間に離されていくのがわかる。

そんな様子を見ながら、悠太はタバコを取り出した。銘柄はキャメルだ。そのキャメルにこだわりのビンテージ
ジッポで火をつける。一口煙を呑むと、天前髪を吹き飛ばすような仕草でふぅーっと大きく吐き出し、天を仰いだ。

“空、青いなぁ・・・。”
ぼんやりと思う。
ふと気がつきすぐ隣に目をやると、麗子がいて目の前を往復する走り屋たちを見つめる姿がある。凛とした横顔を
見て、やっぱりこの人綺麗だなぁ、なんて思ったりもしていた。幸平が結婚しようとしていたのが、5年前ということは
・・この人がハタチそこそこの時に結婚するはずだったのか。そう気がつくと、幸平が正直羨ましかった。

麗:『ん?何かついてます?』
悠:『あぁ、いやぁ、何でもないです^^;;』
一瞬目を離して再び麗子に視線を向けると、自分をじっと見つめる麗子の瞳があった。
すごく優しくて、切なくて、まるで愛する恋人見つめるような眼差し。悠太はドキっとした。
沈黙の時間が流れる。

麗:『・・・目があの人そっくりです。悠太さん・・・。』
そう呟くと、はっと気がついたようにさらに続けた。
麗:『あぁ!ごめんなさい。今なんか、私変な事を・・・・。でも奈津美ちゃんが上原さんにあの人の面影を見た
  理由がわかる気がしました。それにいきなり悠太さんなんて、ホントに馴れ馴れしくごめんなさい。』
悠:『そうですか・・・。いえ、いいですよ悠太で。』
悠太は地面を見つめたまま言った。まだ胸が高鳴っていた。
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326 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/17(土) 04:24:36 ID:wexuwhRs
×天前髪を
○前髪を

328 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/17(土) 04:50:50 ID:wexuwhRs
>>327
ありがとうございます。
いえいえ、たまたま起きてましたので大丈夫ですw

×見つめる姿がある
○見つめている

355 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/20(火) 17:12:11 ID:ZY5sJJZE
しばらく会話が途切れた。先ほどとは違う空気が二人を包む。
さっきの目に、奈津美とはまた違う“何か”を感じた。奈津美が赤ならば、この人は青だ。
奈津美も幸平が好きだった。けれど、それは決して適わぬ恋だった。純粋で淡い恋心、熱い赤。
一方本当の恋人だった麗子。涼やかな笑顔の中に、失った恋人を想う忘れられぬ愛、澄んだ青。
曖昧だが今はそんな対比しか出来なかったし、これからも適切なような気がした。

幸平という人間にかかわった女性は何か特別なものを持っている気がする。
それは何かはわからないが、今まで出会ってきた女には感じた事の無い不思議な感覚。
深い何かに引き込まれるような、そんな怖さすら感じる。本当に妙な感覚だ。

麗:『・・・ねぇ、悠太さん。』
呼んでいいとはいったが、やっぱりしたの名前で呼ばれるのはドキっとした。
何を言われるのだろうか。
悠:『はいっ。』
麗:『・・・そろそろ下に行きませんか?』
悠:『は・・。』
前を見る。気がつくと、すでに走り屋たちの姿は減り始めていた。さっきの事を考えているうちに
時間がだいぶ経過したようだ。時計を見るとすでに午後1時半をまわっている。
それにしても、今の会話にちょっと浮いた展開を期待していた自分をつくづくバカだなと悠太は思った。
悠:『そうですね。』
二人は欄干から立ち上がり、奈津美を呼び止めた後自分たちのバイクに戻った。
(以下(ry

440 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/26(月) 05:52:27 ID:P0j/T3R6
みなさん、ありがとうございます。
結構勢いでかいている部分あるんですが、読んでいただいて
本当にありがたくおもいます。

更新はあと2〜3日待ってください。それまでわっふるお願いします。

480 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/28(水) 19:18:33 ID:xH47SZJ5
拓哉はまだ走っていた。しばらく待って、折り返しに来た時、下に行くか?とジェスチャーで聞いてみた。
首を横に振り、“先に行ってください”というように手で合図をして見せた。まだ走り足らないらしい。

仕方がないので、麗子と奈津美を連れ小僧を下る。やはり総志の話通り、午前中は相当荒れたらしい。
大きなRには割れて飛び散ったカウルやらウインカーやらが路肩に散乱する。そんな小僧区間を過ぎると
さらに1キロほどうねる峠道をくだり、都民の森駐車場に到着した。

正式名称、『桧原都民の森』は秩父多摩甲斐国立公園の東端の地域である奥多摩(桧原村側)で、
東京都民の自然とのふれあいを目的に作られた公園である。場所は三頭山(みとうさん)の標高1000〜
1500m付近にあり「出会いの森」 「生活の森」「冒険の森」 「野鳥の森」 「ブナの森」と分かれている。
初心者にも気軽に軽登山(とはいっても上りは結構急である)が経験でき、各種アトラクションや木工工芸
などの制作体験・ミュージアムで様々な学習ができるという観光施設もある。
その為、日曜祭日は家族連れお年寄りなどで賑わいライダーはちょっと厄介もののように思われている側面
もあった。

先ほどの走り屋とは打って変わって、ツーライダーの一団が駐車場のバイク区画をぎっしりと埋めていた。
殺伐とした小僧区間の浅間尾根駐車場とは違い、ここは休日ライダーのまったり盆栽談義の会場なのだ。
どこを見ても大型SSやツアラー、ハーレー、ドカ。大人の道楽満開である。

それにしても相当数のバイク。ざっと見る限り100台近くはあるだろう。とてもとめられそうにない。

“止められそうにないね”と振り返って首を振ってみると
“そうね”というように麗子が肩をすくめて返した。
遥か後方でRVFに跨ったままため息をついていると、空くのを待っていると顔見知りの駐車場整理員が
さりげなく空いている場所を指差してくれていた。そこは本来バイクを止めては行けない場所なのだが、
顔見知りでもあり今日は女連れとうのも手伝った為か気を使ってくれたらしい。

“ありがとう”
そう手を合わせると“お安い御用だ”と言わんばかりに、オジさんはニヤッと笑って頷いて見せた。
(以下(ry

481 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/28(水) 19:21:24 ID:xH47SZJ5
ココだけ訂正
×空くのを待っていると

488 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/29(木) 03:48:15 ID:6rrCLgeO
そこは自動車専用駐車場、管理所近くのもろもろの用具が置いてある向かい側の場所。
三人はそこにバイクをとめると、とりあえずまたしばらく休むことにした。

麗子は、久しぶりに来た都民の森を少し見てきたいといって坂の上のミュージアムの方向に
観光客に混じり歩いていった。皮ツナギを着たその後ろ姿は、遠目でもかなり浮いて見える。

489 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/29(木) 03:50:54 ID:6rrCLgeO
自販に向かい、飲み物を買う。悠太はここにくると必ず缶コーヒー、と相場は決まっていた。
缶コーヒー、ファイアブラック無糖。これもちょっとしたこだわりで、缶コーヒーに限らず
コーヒーはブラックだと悠太は決めている。

悠:『ほらっ。』
何でもいいと言った奈津美には、とりあえず微糖ミルク入りを渡した。
何でもいいと言っても、コイツがブラックとは考えにくかったから。
奈:『ありがと^^』
そういって受け取ったが、プルタブが硬くて開けられない様子だったので見かねて開けてあげた。
えへへ、と笑って両手で受け取る奈津美。やっぱりコイツ憎めないキャラだよなぁ、と思う。
奈:『ユウ君、あのさ・・・』
悠:『ん、何?』
奈:『後で、小僧区間って走ってみたいんだけど・・・ユウ君も一緒に走ってくれない?』
悠:『あぁ、いいよ。でも無理するなよ。最初はちゃんと流すんだぞ?』
奈:『うん、わかった。』

そういうとしばらくツーライダーの盆栽談義の様子を眺めならコーヒーを飲んだ。

490 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/29(木) 03:51:44 ID:6rrCLgeO
よく見ると頻繁にココに来ているおっさんライダーもいる。よく毎週のように
ここに来て盆栽談義してあきないものだ。その気の長さに逆に感心する。でも
天気もいいし今日は絶好の盆栽談義日和なんだろう。
すぐに飲み終わってしまったので空き缶を灰皿代わりにタバコに火をつけ、また
ぼんやりとしていた。隣に座っている奈津美はまだコーヒー缶を両手でもって飲んでいる。

奈:『ねぇ。』
悠:『あぁ。』
奈:『あのさ、今のユウ君と私って他の人からどう見えるだろう?』
悠:『ん、どうして?』
奈:『うーん、何となく。』
じっと真顔で目を見てくる。何を期待してるんだろうか。
悠:『・・・どうだろう、まぁ親子にはみられない事を祈ろう。』
奈:『当たり前だよぉ!こんな若くてカッコイイお父さんいないもん!もぉ意地悪><;』
悠:『ははwカッコイイか、ありがとうよw』
少し奈津美がモジモジしている。今度は何を言うんだろう。

奈:『ねぇユウ君・・・。手、繋いでイイ?』

492 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/29(木) 04:41:35 ID:6rrCLgeO
悠:『いや女の子と手を繋げるって嬉しいけど、ほら。お前と俺何でもないだろw』
軽く笑いながら答える。
奈:『だって、手繋ぎたいんだもん』
奈津美はいたって真剣な顔で言っている。

つまり、恋人同士に見てもらいたいって事か?それともそういう気分を味わいたい?
いや、これは告白みたいなもんなのか?
どちらにしろ麗子が一応いる手前変な誤解を生むような行動は慎まねば、そう悠太は思った。
悠:『なぁ奈津美。』
奈:『うん。』
悠:『そういう事は彼氏が出来たときにおっておくモンだぜ?』
奈:『だって、今、ユウ君と手繋ぎたいんだもん!』
悠:『おいおい・・。お前ってそういうとこ結構子供なw』
奈:『・・子供じゃないもん。』
悠:『いや、子供だな。』
奈:『・・・子供じゃないもん!!』
聞いたことがない強い調子だった。子供だといわれた事にかなり怒っているようだ。
ちょっと子供子供強調しすぎたかもしれない。子供だと見られることを結構気にしているらしい。
そういうところが幼いというのだが、まぁこのままでもまずいので言い直すように悠太は話し始めた。

悠:『まだ俺達知り合って間もないし俺お前の彼氏じゃないn・・』
奈:『こんな苦いコーヒーだって飲めるもん!一気に飲めるもん!!』
悠:『は、はぁ?』

そういうと両手に持っていた缶コーヒーを一気に飲み干した。結構残り量があったらしく
グビグビと喉が動く。ぷはぁ、という感じで口を離すとなみだ目で、どうだ!と言わんばかり
の顔で悠太を見る奈津美。その顔に、悠太は思わずふきだした。

悠:『あはははははっwわかったわかった!お前はやっぱり』
奈:『ねっ、オトナでしょ?!』
悠:『やっぱり、カワイイ奈津美だ。それでいいじゃないか。なっ?』
頭に手をポンとのせた。不満そうではあった奈津美だったが、そのうち笑顔になっていた。

493 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/06/29(木) 04:51:31 ID:6rrCLgeO
(以下3日後くらいまで(ry

542 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/07/05(水) 01:56:01 ID:9RtlZUxr
奈津美がコーヒーを飲み終える頃、麗子が戻ってきた。

麗:『お待たせしました。』
奈:『お帰りー。』
悠:『上の様子はどうでした?』
麗:『ただいま。何か久しぶりに来たんで上で色々思い出しちゃいました。昔と殆ど変わってなかったんで
懐かしかったです。このキーホルダーここに来た時に彼が作ってくれたんです、不恰好ですけどw』
VFRのキーに付いている木製キーホルダーを悠太と奈津美に見せた。形からイルカだろうか。麗子の
言うとおりソレはゴツゴツと角だらけ不恰好な形で、男の手により作られたものであることを物語っていた。

奈:『かわいいね^^』
こっちを向いて同意を求められたのだが、否定するのも野暮だと思った悠太は一応うなずいた。

悠:『あ、そうだ。奈津美が小僧走りたいって言ってるんで俺らは上行きますけど、麗子さんどうします?』
麗:『私も走りたいと思ってたんです。やっぱり見てるだけじゃつまらないですからねw行きましょう。』
奈:『じゃあ行こう!』
悠:『よし。じゃあ行ってみますか。』
奈:『うん。』
麗:『はい。』

3人は都民の森を後にし、小僧区間の下折り返し地点である数馬駐車場に向かった。


545 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/07/05(水) 03:14:19 ID:9RtlZUxr
すいません、忙しい状況ですので続きはまた今度書きますです。。。

604 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/07/11(火) 23:28:00 ID:iTFQwXaF
都民の森をでて、再び上る。程なく数馬駐車場に到着した。
しかし何か様子が変だ。普段折り返すだけに使う数馬駐車場でめったにバイクを止めたりはしない。
だが今は大勢の走り屋たちがバイクをとめ、話し込んだり浅間尾根の上を眺めてたりしている。
気になった悠太たちも近くにバイクをとめ、走り屋の一人に話を聞いてみることにした。

悠:『どうしたんだ?』
走1:『あぁ、上原先輩。厄介なのが来たんスよ。何を勘違いしてやがんだしらねーんスけどバトル
挑んできて強引にぶち抜かれるんで危なくって・・・。ニコニコ(※)の連中より達が悪いス。』
悠:『厄介なの?』
走2:『えぇ、例の大垂水からの遠征組みたいです。』
走1:『大垂水走勇会の男スよ。さっきキレたナベさんがバトルで勝ったら抜くのをやめる、負けたら
    今日は小僧を明け渡すっていう条件でバトルしたんですがヤツが予想以上に速くてナベさんが
    負けて俺らこの状態って訳です。』
悠:『つまり明け渡した、と?』

二人は情けなくうなずいた。

悠:『ナベがか・・・。で、そいつ何乗ってんの?』
走1:『全員NSR250SPのセブンスターです。特に下りの突っ込みがハンパじゃなくてナベさんも
    負けたって言うわけス。』

605 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/07/11(火) 23:30:06 ID:iTFQwXaF
峠の走り屋の“真の勝負”は下りにこそある。パワーの絶対的な差が関係なくなり、ブレーキング、
ライン取り共に難しくなる下りはライダーの本当に実力が試されるからだ。しかし、マシンの性質も
重要な要素となる。
奥多摩の小僧区間のような勾配がキツく、深いRが点在する峠では軽さと適度なパワーというマシン
バランスが必要とされる。リッターSSでは絶対的なパワーは大きくそこそこの軽さもあるが、そのパワーが
足かせになり殆ど開けられない為に十分な能力を発揮することが出来ない。

それは上りでも言うことが出来る。
深いRが連続する場所ではコーナリング限界速度は低く、絶対的なパワーに対して開けることが出来ない
という事態が多く発生するからだ。この事から、車重も軽く適度なトラクションをもたらす中型マシンこそ小僧
区間のような場所ではもっとも扱いやすく強いマシンといえる。
悠太が奥多摩のメインマシンにRVFを置いているのはその点からだった。

今回も下りでNSR250SPの相手がZXR750では歩が悪い。車重で圧倒的に軽いNSRに対して思いZXR
ではパワーの差も下りではあまり意味を持たない。

さらに付け加えた。
走1:『しかもソイツ訳わからない事いってるんスよ。俺の女と一緒にいるヤツがココに来たはずだ
   ソイツを出せ〜、とかなんとか・・・。』
悠:『まぁその話からナベは関係なさそうだなw』

横にいた奈津美の表情が急に曇った。
(以下(ry

747 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/08/04(金) 22:57:31 ID:LVVaZh5Q
悠太も奈津美の表情の変化に気がついた。奈津美がこういう表情をするときは何かを隠しているときだ
まだまだ自分の知らない事が多そうだ、悠太は思った。

すると浅間尾根の方向からけたたましいV型2ストロークのエキゾーストが迫ってきた。
黒い車体に銀のスターマーク、どうやら例のNSRのようだ。鈴鹿8耐のセブンスターホンダの
レプリカを意識したであろうツナギを身にまとったライダー。小柄である。
ミラーシールドの入ったRX-7 RR4からは表情をうかがい知ることは出来ないが、
悠太と奈津美を凝視しているのは分かる。

左ウインカーをたき、数馬駐車場に入ると悠太たちの目の前でピタリと止めた。
ヘルメットも脱ぐ事無く、悠太に近づいてきて目の前で立ち止まった。拓也ほどではないが、やはり小さい。
シールドを開け早くもメンチ切り。しかし、この手の威勢のいい挑戦者に慣れている悠太は動じなかった。

?:『おめーが上原悠太だな。』
悠:『あぁ。』
?:『てめぇ人の女に手出しやがってただで済むと思ってんのかよ?あぁ??』
悠:『人の女?誰の話だよw』
?:『奈津美に決まってんだろ!』
悠:『お前なんか勘違いしてねーか?w俺は奈津美とは何にも・・・』
?:『はぁ?!ナメてんじゃねーぞクソが!!乗れ!勝負だコラぁ!』
悠:『わかったわかった、勝負してやるがその前に名乗るのが礼儀だろ。』
?:『・・・山野遼平だ。覚えとけ!』

そこまで言うと、ようやく遼平は奈津美に振り返った。

748 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/08/04(金) 22:59:38 ID:LVVaZh5Q
遼:『お前のために今日は来たんだからな。一緒に帰ろう・・。』
奈:『いつから私はお前の女になったんだよ!アホ!!』
遼:『そ、そんな事いうなよ〜(;´∀`)それってあんまりじゃん?』
奈:『うざいんだよ!この勘違い野郎!!バカ!!しね!!!』

ワケがわからない。片方は『俺の女』、片方は『勘違い野郎』。全く状況が
把握できないので奈津美に聞いてみた。

悠:『・・・ちょっと待て。話がよくわからないんだが、お前ら恋人同士じゃないのか?』
奈:『違うよ!こいつ一回道志に道案内してあげたらずっとくっついて来るの・・。
凄く気持ち悪いヤツなんだ・・。』
麗:『あぁあの時のコね。まだなっちゃんに付きまとってたんだ・・。』
奈:『うん・・。悠くん、危ないし勝負なんかしなくていいよ!』
悠:『じゃあなおさら悪い虫は退治しないと、だな。』
遼:『誰が悪い虫だ!俺はお前の為に・・・!!!』
奈:『・・・キモい(´Α`)』
遼:『くっそぉ〜・・・てめぇぇええぇぇえ!!!さっさと勝負しろ上原悠太!!!』
悠:『へいへい・・・。』

もうこの男誰に対しての怒りだかわからないが、早速ルールの確認に入った。

924 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/08/23(水) 18:59:26 ID:Aj+Yx/TG
奥多摩での勝負は通常以下の通りである。基本的に『抜き』はなしだ。
小僧区間はガチンコで勝負した際、安全にオーバーテイクができるほど道幅は広くないからだ。
上り下りをそれぞれ入れ替わりで2本ずつ走り、先行しているライダーがゴールしてからの
経過タイムが計測され、トータル5秒以上差がつけば完全な敗北とされる。
また、転倒すれば即負けである。

走り屋1:『まぁ、こんな感じッス。』
と、いまだ不機嫌そうな遼平に走り屋の一人が丁寧に説明してみせた。
遼:『わかった。で、まず上りの先行は俺が先でいいな?』
奈:『ちょ、なんで勝手に決めてんのよ!!』
悠:『まぁ俺はかまわないよ。』
遼:『へへ、決まりだなw』
奈:『えぇ?!悠くんソレでいいの?ペース握られちゃうかも・・』
悠:『大丈夫。どっちが先だろうと俺は勝つよ。順番は気にならないさw』
そういうと、また頭をポンと叩く。不安そうだった奈津美の表情がほころぶ。

遼:『こらァ!!俺の奈津美に気安くさわんなっつてんだろ!』
奈:『あたしはお前のモンじゃないってば!』
悠:『・・・らしいぞ?』
隣で奈津美もこれ見よがしな大きなアクションでコクンコクンうなずいている。
遼平がちょっと悲しそうな顔をする。が、すぐに悠太をにらみ返すと、次のように続けた。

遼:『とにかくだ!俺が勝ったら奈津美に二度とてぇだすんじゃねーぞ!わかってんだろうな!?
奥多摩にも二度とくんな。最速気取りだか何だかしらねーが化けの皮剥いでやる!!』
悠:『わかった。ただし、俺が勝ったら奈津美から離れろよ?あと・・・』
遼:『・・・あと何だ。言えよ。』
悠:『そのNSR貰おうか。お前の走りじゃNSRが可哀想だからな。』
遼:『んだとテメェ・・・言ってくれるじゃん。まぁいい、吠えヅラかくんじゃねーぞ上原悠太!』
悠:『期待してるぜ山野遼平君。』
横で見ていた麗子は悠太の変化に気づき始めていた。
その顔には冷静さとは違う冷たさを帯び、瞳には獲物を狩る猛禽のごとく鋭い光が宿っていた。
(以下(ry

932 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/08/23(水) 21:36:16 ID:Aj+Yx/TG
無風。気温17℃天候晴れ。山の夕暮れは早い。空は若干オレンジ色に染まってきている。
一箇所午前中のオイル痕や破片で多少路面は荒れているもの、ラインのとり方次第で問題はなさそうだ。
各コーナーのブロック上のフェンスでは、このバトル久しぶりの悠太のガチンコバトルを見ようとよじ登り
すでに走り屋連中のギャラリーで人だかりを形成。皆フォーメーションラップさながらに固唾をのんで
見守る。奈津美は浅間尾根に上り、コーナー出口で悠太のゴールを総志たちと待っていた。
上り下りとも一本づつ流し、スタート地点である数馬第一駐車場まで帰ってきた。

一度降車しアルパインスターのグローブをはめ直し、ブーツのつま先でトントン地面をトントンと2、3度
蹴ると、近くで見ていた麗子に悠太が言った。

悠:『麗子さん、一応なんですが・・スターターお願いします。』
麗:『はい、わかりました。』
そういうと、またロスマンズRVFに向かっていった。
麗:『悠太さん!頑張ってください!!信じてます!』
悠太は右手を上げるだけで、それに答えた。

遼平はすでに乗車し待っていた。漆黒のセブンスターのボディーが夕日を反射し紅色のローブを
まとったように怪しく光る。横のRVFに乗った悠太は、静かにミラーシールドを降ろした。

“シャララララッパパパパッパラーンパララーーンパラッパラパラパラパパパシャラララ・・・”
“キュルルン!トルルルルルルルルルギュインギュイーーーントルルルルルギュイーーーン・・・”

MC28、V型2ストロークの乾式クラッチとNC35のForceV4。
両者独特のブリッピングサウンドが奥多摩の山々の深くまで響き渡る。

すでにスタートラインがわりに路面に白いガムテープで印がつけられている。その横には麗子。
午後3時27分。いよいよ時間は迫ってきていた。
(以下(ry

933 :60 ◆AnWqZv3C3k :2006/08/23(水) 21:40:10 ID:Aj+Yx/TG
×このバトル久しぶり
○この久しぶり


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