戻る
765 :774RR:2006/08/08(火) 01:00:16 ID:Y8SLYnaX
電車の窓から見えたのは、大きな灰色の塊のような雲が、
どっしりと支配した空だった。
こんな空を見てさらに嫌気がさしたのかわからないが、どこか今日はイライラした。
それに、さっきからじーっと物珍しそうにこちらを見るおばさんが
うっとおしくてたまらない。
不機嫌そうにギロリと睨みつけると、おばさんは、焦ってぱっと他へ目を移した。
まあ、ちょっと罪悪感。

駅に降りると、どっとホームが人で埋めつくされた。
しょうがない、ちょうど帰宅ラッシュの時間帯だから。
ここでまた、嫌気と憂鬱感が溢れるほどたまる。
階段で、何人もの背広姿のおっさん達を、かきわけるように抜かしていく。
早くきたつもりだったが、改札口はもうすでに混んでいた。
いつものカードを入れる。
「定期券」と表示 

そこを抜けると、なにか少し解放された気分になった。
だが、それはすぐに、どんよりとしたものにかき消された。
「あー、絶対びしょびしょだ・・」
と独り言をわざと漏らしつつ、ウィンドブレーカーのフードをかぶって、
雨の中を走り出した。
キーをポケットから、走りながら出す。
たどり着くと、濡れたフルフェイスヘルメットを
ホルダーからはずし、適当に水滴をとばして
すぐかぶると、ONにし、セルボタンを押す。
「きゅルキュるんきゅル・・キュるん・・ぶいいいいん」
なんとかかかったような感じだ。
アイドリングがなかなか安定しない。白煙がモクモクと周りをうめつくしそうだ。
少し、落ち着いたと感じると、思い切って、スロットルを回し、公道へ飛び出した。
TZR50と家路を急ぐ。

775 :774RR:2006/08/09(水) 00:11:32 ID:7WqnXypJ
ウインドブレーカーがはじいたおかげだろう。
ドアの前で、首の紐にかかったカギを取り出し、ドアを開ける。
ふと、そのとき、自分はいつ頃からこのカギを、首にさげてたのか、
いわゆる「鍵っ子」になったのか、気になった。
小学2年生くらいだろう。親が共働きになったのは多分その頃からだ。
カギの紐は、その頃から換えていないため、白の面影はなく灰色がかっていた。
玄関に入ると、昨日の晩のビーフシチューの匂いがうっすらする。
少し、身震いすると、すぐにその場で、ウインドブレーカーを脱ぎ始め、
バスルームへ直行した。とにかく熱いシャワーを浴びたかった。
41℃に設定する。
蛇口を捻ると、すぐに、湯気で真っ白い世界に包まれた。

今日1日をふりかえる。
なにもない1日、そう一言でまとめられる。
ただ、時間というものに流れていき、流れを止めるような突き刺さる言葉や行動なんて一切ない。
飛び交うのは、平穏な言葉と言葉の投げあい。
昨日のバラエティ番組の芸人のネタや、隣のクラスの○○とうちのクラスの○○が付き合ってる
とかって。ほんとそんなのばかりだ。
でも、ふと今日、みゆに言われたことを思い出す。

「きみ、ホントなに考えてるかわからない人ね。」
いきなり授業中言われたものだから、ぎょっとした。
なんでこんなことを急に言うんだろうか。
後ろの席のみゆが、どんな顔でいったのか気になって、振り返ろうとしたが、
あえて冷静を装って、振り返らず教科書を見ながら
「・・なんで?」とだけ答えた。

782 :774RR:2006/08/09(水) 23:28:55 ID:VdDdgQOp
「だって、みんな言ってたよ。キミと話すとき、笑っていても、ぎこちないんだって。
それに、学校では仲良くするのに、なんで、この前の打ち上げにもカラオケにも来ないの?
来てなかったのキミだけだよ。学校外では遊ばない主義?」
「・・別にしょうがないだろ。この前は用事があったんだよ。それに人の笑う顔まで文句つけんな。」
前を見ながら適当にあしらう、だが、みゆは話しつづけた。
「キミ。笑うとき、顔をこうやって伏せるでしょ。だからほんとは、面白くもないから
その下で怖い顔してるんだって、みんな言ってたよ。」
ついに耐え切れなかったので、みゆの方へすばやく振り向いた。
「あのなあ、、おまえ皆が言ってることは全部、本当な訳ないだろ、」
みゆは、すました顔でこっちを見ながら、指差す。
「そう、そんな感じの怖い顔で。」
少しため息をついて
「じゃあさ、俺がもし感情も持たない23世紀の超人間破壊兵器って皆が言ってたら信じるのかよ?」
みゆは、少し困ったように、眉間にしわをよせて、少し考えこんだ末に
「・・少し。」と小さな声で答えた。
「まじかよ・・」大きくオーバーなため息をつくと、
椅子を座りなおし、授業に集中することにした。
でも、みゆは、まだ話したいのか、
「あっごめんね、でもさなんで、1学期、学校来なかったの?なんかあったの?
誰かにいじめられてたとか?」
少し考えたが、
「腹がいたくて、ずっと入院してた・・」
と、だけ答えといた。
みゆは、驚いたような声で
「えっ!?うそっ!?でも斎藤くんと平川くんが6月頃夕方2、3回海浜公園でキミ見たって言ってたよ。」
少し、ドキッとする。だが落ち着いたように口を開く。
「おまえ刑事かよ・・・いろんな人に事情聴取でもしてんの・・」
「やっぱり、ごまかしてっ!入院してたなんてウソでしょ!?ほんとはなにやってたのー?」
みゆのかん高い声が、頭に響く。

783 :774RR:2006/08/09(水) 23:30:08 ID:VdDdgQOp
バスルームから出ると、pm4:35だった。
5時からバイトだったということに気づく。
少し湯覚めかフラフラするが、トランクスとズボンとTシャツを素早く着ると、キーを握って
外へ飛び出した。
思わぬ光に、目を細める。
雨は、知らぬ間にやんでいて、空の端で陽がオレンジ色に染めていた。
灰色の雲はひとつもなく、白くなびいた雲が包むようにある。
セミが、何匹を重複してうっとおしいほど鳴いている。
少し濡れたTZRの水をはじいて、乗ると、目を覚まさせる。
鈍く吐く白い息を残して、スロットルを全開にして、飛び出した。
さっきより、調子がよく感じかん高いサウンドが響く。

前のオレンジ色の光がまぶしくてしょうがない

791 :774RR:2006/08/11(金) 00:47:20 ID:i0XwZ+6u
>>765 >>775 >>782 >>783

「いらっしゃいませー。」
「ありがとうございましたー。」
この繰り返しだ。このコンビ二のアルバイトを始めて、半年が経とうとしてるが、
もううんざりしている。やっていることが単調すぎる。というか、悲しいほどやることがない。
このコンビニの立地の関係もあるかもしれないが、この17時から22時の客の数は、せいぜい
指で数えるほどだろう。だから、こちらの中心の仕事である接客がほとんどない。
いままで、1年半で、アルバイトを転々と変えてきたが、今はここに落ち着いているように
見えるが、そろそろやめたい空気が自分の体の中を彷徨いはじめている。
ここのアルバイトの高校生がやるのは、ほぼ雑談だ。高校生という地位なので、許されているのか
わからないが、オーナーがいる前でさえ、カウンターの前で、平気でぺちゃくちゃとしゃべり
爆笑をし手をたたく。客がくれば、適当にレジをうち、客が帰ると、またしゃべりはじめる。
それを、オーナーは、見ていないフリをしているのか、ひとり商品を整えていると
「後、じゃよろしくね。」と、足早に帰ってしまう。
こんな感じなのは、どこも同じかもしれない。高校生をアルバイトとして雇うということは
いまは、”高校生は真面目に仕事しない”こういうリスクを背負ってもやっているのかもしれないと
なぜか客観的な感想がいつも思い浮かんでいた。



792 :774RR:2006/08/11(金) 00:49:59 ID:i0XwZ+6u
「んでぇねー、次、どこ行ったろ思いますぅー?」
1つ下の美夏が話していたことに気づく。
「え?あっ、うーんジャスコとか?」
「えっ、先輩wちゃんと答えくださいよwジャスコってww」
けっこう笑ってる。美夏とは、このアルバイトで火曜日に組んでる。
コンビニのシフトは、基本二人一組だ。
だから、どんなに顔見知りのやつでも、時間がたてば、組んでいるやつと、
絶対に仲良くなっていく。
5時間無言なんて耐えられないだろう。
だから、この仕事のときは、できるだけ気まずくならないよう
明るくしようと思っている。
美夏は見た目、少しメイクが濃くて、髪は茶のかかったはセミロング。
少し大人っぽく見せようとしてるのだろうか。だが背は低く、八重歯が子供っぽく
やんちゃなかんじがするので、少しバランスが悪く感じる。
「そのあと、カラオケとか行っちゃったんですよぅ、しかも急に楽園ベイベーとか熱唱しはじめる
かなり、引きましたww初めて二人で遊びに行ってそれはないですよねw」
美夏が八重歯を見せながら笑い続ける。
「いきなり楽園ベイベーは引くねwどうしたんだろうね彼はw」
美夏が俺のことに好意をもってるのは、なんとなく前からわかっていた。
なにかあるとすぐこんな風に報告してくるし、この小さなコンビニの中を少し移動しただけでも
ちょこちょこついてきて話し始める。それに、他のバイトのコから聞いた話によると
「あのコは、火曜日、先輩とあたるから、服やメイクに気合をいれて、行くらしい。」
とか言っていた。
美夏の気持ちは嬉しかったが、不思議と付き合うとかいう感情や気持ちは
湧き上がらなかった。
「もうねぇー、その日に別れちゃいましたよw」
美夏はマンガに出てくるようなエヘッみたいなそのままの感じで首をかしげて、
舌を出す。
「ええwまじかよーw1日で破局はやいなw」
作り笑いを続けると、
ドアの前に影がでてきた。
客だ。

793 :774RR:2006/08/11(金) 00:52:34 ID:i0XwZ+6u
「いらっしゃいませー」
美夏が先に言った。
客はこっちを一瞬睨みつけると、
「おおっ、祐樹じゃん!」
名前を知らないやつに言われたので、かなり驚いたが、それは、すぐ訂正された。
「おお、健治?健治でしょ?」
そいつは、中学3年のときの同じクラスの、山下健治だった。
すごく仲良かったわけではないが、学校で、あの頃はふざけあってよく遊んでいた。
今は、黒いTシャツにジーパンに、金髪にピアスとけっこうキテル。
ので、すぐに健治だとはわからなかった。
「おまえ、ここでバイトしてんのか!?いつから?」
「ああうーん、半年くらい前からかな。それよりおまえ変わったな。」
「そうかあ?おまえあんま変わってないなw」
「まあなw」
美夏を見ると少しおびえていた。
「んじゃあなー、またくるわー」
「おう、じゃあなー」
健治は、ジュースを買ってカウンターから離れようとしたとき急にふりかえって
「あっ、そーいや、あそこに置いてあるTZR50ってゆうの?」
別に隠す必要もないだろう。
「あっうん、そーだよ」
「へえ、けっこう、かいぞーされてんなーっ、速いの?」
「まあまあだねw」
「そっかwんじゃw」
それだけ言うと、健治は帰っていった。
遠くで2ストのサウンドが響く。

801 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 01:18:03 ID:gEkGxiYi
>>793

美夏に話しかける。
「どーしたの?あれ、俺の友達だから。怖そうだったw?」
少し、笑みをうかべながら言ってみたが、美夏の表情は曇っていた。
「そーなんですかあ、、先輩の友達だったんですかぁ、、」
そこで会話は途切れた。少し不自然かんじがしたが、特に気にもせず
「しゃー、あと2時間だー。疲れたー、甘いものが食いたいー。」
「あー、あたしもなんか食べたぃですー。」
「シュークリーム食いたくね?どうどすか?w」
「あっ、食いたいどすぅw」
「じゃさ、この2つのシュークリーム誰にも買わせないように奥にいれとくぜお!」
「おっ、おっけーぜおw」
ちいさなコンビニの中で、ちいさな雑談に少し華を咲かせてバイトの時間は終了した。



802 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 01:21:25 ID:gEkGxiYi
生ぬるい風が勢いよくばさばさと服を揺らす。
前の風景が少しずつ、ぐいーんと狭まっていく。60kmメーターはもうすでに振り切っていて、
後からつけた、ちゃっちいメーターシールの90を指していた。
TZRでバイトの帰りから家に向かわず、駅周りの幹線道路の直線を走っていた。
バイト帰りによくここへ、気分転換のように、走っている。
カウルからヒューという空気を切り裂く音が聞こえる。
10キロ近くあるこの直線は、今日はこの体を眠くさせると同時に、
なにかをどこかへ引きさらわれてしまう感覚にする。

803 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 01:22:50 ID:gEkGxiYi
青白い世界に、紫色の液体がトロトロと足元に流れている。
自分の足が不安定なのかかろうじて立っている状態なのだが、視界は斜めになってしまっている。
直そうと斜めに首をかしげる。が、そのとき、視界は急にぼとりと地面へと移る。
悲しくもないのに、涙が流れる。
一面のすすきがゆれる。
青色がさらに濃くなっていく。
声を出そうとする。


そのとき、ゆがんだ視界がぐわっと戻される。我に返ったのだ。
「ぎゅいいいいいいいいんいいいん」
TZRは悲鳴をあげていた。
メーターをみると、12000rpmを超え、110kmを指していた。急いで減速をする
幸い、後続車はいなかった。
歩道に乗り上げとめて見たが、特に異常はない。
このTZRは、一回、死んでいるので、4EUのエンジンを移植したらしい。
前のオーナーの使い方が荒かったのか、外装はボロボロで始動率も非常に低い。
だが、リップスのステージ1ボアアップキットも組んであるらしく
眠りから覚めたときは、それなりにスピードは出るみたいだ。
押しがけをして、一度エンジンをかけると、家路に向かった
今日はもう疲れた。おとなしく帰って寝よう

804 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 01:46:52 ID:gEkGxiYi

「ただいまー。」
絶対にかえってこない返事を少し待つ。
「おかえり・・おれ」
と、小さな声で漏らす。
ヘルメットを雑に玄関に置くと、リビングの電気をつける。
やけに綺麗に片付いている。
いつもの風景が見えるわけだが、この風景には何かが足りない。
もう一回電気を消して、またつける。
足りないものはわかっていた。
真の生活感のない部屋というのは、こういうことをいうのではないだろうか。
時計を見ると、23時半頃だった。
おもむろにTVの電源をつける。
「はははっ」といういかにも笑わせたような笑い声。人気らしきの芸人が、
派手なステージで笑いをとろうとしてる。
明日は、学校でみんなはこの番組の話をするのだろうか。
やけに馬鹿らしく、なにか無気力にとらわれたので、すぐにTVの電源を消して
自分の部屋へ向かった。
ドアを開けて、電気もつけずに、ベッドにすぐ倒れこんだ。
何もかもから解放されたかったのである。

811 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 22:01:04 ID:dAC+kP8t
>>804

ピピピッピ・・・
不快な電子音が響く。
片手でデジタル時計をたたく。am6:42。
「うーーん・・・、はあ」
完全に覚めない体を起こす。
1階へ降りる。昨日と変わらないリビング。当たり前のことだが。
「・・・・・・。」
その景色をけだるい体でぼーっと見つめながら立ちつくす。
はっと思うと、もうam6:55。
この忙しい朝に、このタイムロスは命がけだ。
はちみつトーストをセットすると、2分にセット。
その間に、制服を着る。ふと、鏡を見るとひどく目の下に熊が居座っていた。
疲れてるんだろう。
「チンッ」
パンができたみたいだ。速攻でほおばって、冷蔵庫からコーヒー牛乳と取り出し、流し込む。
目覚ましテレビをつける。あやぱんが、深刻な表情で、話を切り出すと同時にテロップがでてくる。
どうやら、逃走中の連続殺人犯が捕まったらしい。顔写真が映し出される。
無表情でうつろな目をしている顔だ。これより良くとれた写真はなかったのだろうか。
しかし、そのときなぜか、その顔に親近感がわいていた。
ふと、気づく
「やべっ!!」
am7:12。
カバンをランドセルのように肩にかけると、キーとヘルメットを握った。
今日は、やつを使うしかない。

812 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 22:01:59 ID:dAC+kP8t
玄関を飛び出す。朝なのにもうセミが鳴いている。
今日も暑くなりそうだ。
カギをしめる。
広い駐車場を一人で独占しているTZRを起こしにかかる。
昨日の件があったから、素直にかかるかどきどきしたが、
思ったより、すぐかかった。
セルボタンを20秒間くらい押しつづけたが。
「ブイーーーーーン、ッテッテ、テッーー、ギュイイイイン」
有無を言わず、スロットル全開で走る。
途中信号で止まるが、今日はごめんなさいと、歩道に一度乗り上げ
無理やり、公道へまた戻る荒技を繰り返した。
途中、自転車で必死で坂を登り、駅に向かう高校生が何人もみる。
うちの高校の制服をきた女子高生が必死でこいでるを見つけた。
立ちこぎをしている。ひざよりずっと上のミニスカートからは、一瞬チラチラと
その中にある白いものがみえる。凝視し続ける。今日は、ハッピーデイだ。
たとえ本人が見えていると気づいても、今は、それどころじゃない
のだろう。後ろからぶち抜いて、横顔をみると
「うおっ!」
ヘルメットのなかで、思わず声を漏らした。
みゆだった。
みゆもこちらをずっと見ている。いや大丈夫だ。
こっちはヘルメットをしてるし、ばれないだろう。
冷や汗が気持ち悪い。

813 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/12(土) 22:03:03 ID:dAC+kP8t
腕時計を見ると、am7:28もうこの駅でとめて、走っても、間に合わないだろう。
次の駅へ行くしかない。TZRを飛ばしつづけた。
最終手段としては、学校まで行くのだが、もちろん学校は
原付バイクは禁止だ。もし、見つかったら、停学はまぬがれないだろう。
とりあえずその時は、学校の近くで、停める場所を探せばいい。

キンコーン、カーンコーン
毎度おなじみ朝のホームルームの開始の時間だ。
「はあ、、はあ、、ぜえ・・ぜえ・・」
ひどく疲れていた。
「キミ、なんでそんなに疲れてるの?なんか気持ち悪いんだけど、、」
みゆが、後ろの席からはなしかける。
「はあ、はあ・・うっ、うっせー。こっちは遅刻するかしないかを・・。はあはあ」
結局、学校から1km手前の駐車場に、TZRを停めた。
そこから、猛ダッシュで向かったのである。そして、こうして間に合っている。
「なんで?、バイクってそんなに疲れるの?」
みゆは何気なく言った。
「・・・・・・・・。ん?」

830 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/14(月) 22:40:50 ID:e6pgjLzf
>>813
一瞬、何をいわれたかわからなかった。
しかし、なにかまた嫌な冷や汗が沸いてくる。
「な、な!にいえうfげrszv」
みゆはいたって、涼しげな顔をしている。
「なに言ってるかわかんないだけど・・」
確かに、みゆが言うのは当然だ。
自分でも何言ってるかわかんない。少し自分で落ち着かせていった。
「なんで・・知ってるの?」
みゆは、無言でズボンのあたりをさす。
「それ、ズボンのとこにチェーン、そんなダサいチャラチャラしてるのつけてるの、うちの
学校でキミだけだよ。」
「・・そっか。ってかダサいとかうっせ!おまえ、今日チャリこいでたとき、パンツ見えてたぞ!」
勢いあまって言ってしまった
みゆは、少し顔を赤くして、うつむいた。
意外な反応に少し可愛く見えた。みゆなら、ふーんとかで終わりそうな気がしたからだ。
自分のズボンのチェーンを見て、少し考えた。確かに、少し、このチェーンは特殊なやつかもしれない。
バイクのチェーンの形をしたやつで、昔、近くに住んでたバイク好きのおじさんから
もらったものだ。
とりあえず、今は、そんなことはどうでもいい。
知られてしまった今、みゆに口止めしなくては。
みゆなら、時々、天然が入る傾向がある。
そのとき、口を滑らす前に!


831 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/14(月) 22:41:34 ID:e6pgjLzf
重い口を開く。
「あのー、みゆ・・いや向坂みゆさん・できればこのことは・・」
「日曜日」
「え?」
「日曜日、用事があるんだけど、一人で行くの嫌だから一緒にきて」
少し考えたが、答えはひとつしかない。
「いいですよお、なんでもいいですよお、どんなことでもOKですよお」
やけになって、口走ってしまった。
みゆは少しけげんそうにこちらを見つめていたが
「ふーん、でも、まあ、当たり前ですよねぇー、階川くぅん」
と俺の弱みをにぎったのが嬉しいらしく、終始、こちらを見ながら微笑んでいる。
用事ってなんだろう・・。

845 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/16(水) 00:55:16 ID:GxP/d7KL
>>831

日曜日、ただいま10時05分。
7月21日。
ちょうど、昨日から、夏休みに入ったのだ。
塩佐波大橋の竜の銅像の前で待つ。
この変な竜は、いつからあったんだっけな。
手にきゅうりみたいなのを握っていて、明後日の方向を向いて、口を大きく開ける
この竜には、この辺ではみんな「きゅうりゅう」と呼んでいる。
多分きゅうりと竜をかけたんだと思う。
橋の下には広大な海が広がる。海沿いにあるこの街は、ここはもちろん海は高いところ
に登れば、どこからでも見れる。
この街に憧れるやつも多いだろう。

小さい頃、「ゆう、海は嫌な昨日をすべてを綺麗に飲み込んでくれるの。」
そんなことを泣きながら母親から言われたことを信じていたが、今は、それは嘘だとわかった。
よく考えると、母親はいつも泣いていた。なぜだろう。思い出すと、いつも泣いている顔だ。
だが皮肉にも、その本人がその嘘を教えてくれるとは。今、自分で自分を鼻で笑いたいくらいだ。

夏になりかけてあるとあって、おだやかな波にサーファー達で盛り上がる海辺を
ただ遠くで見守っていた。

それにしても、みゆは遅い。なにしてるんだろ。
携帯を、折ったり、開いたりを連続でしながら、気になる。ふと
もしかして、これはなんかの罰ゲーム?と思った瞬間、テクテクと歩いてくる、女の子が見えた。

846 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/16(水) 00:56:20 ID:GxP/d7KL
「いよっ、どうしたの?海なんか見てて」
やっぱりみゆだった。
「お、おう・・。いや別に、もうこんな時期だなぁってなー」
「そうねー、もう来てるのね、今年もたくさん、人来るんだろうなぁ」
遠い目で見るみゆ。
それを見ている自分が、
少し緊張。アンド、心拍数が高い気がする。
それもこれも、みゆの私服姿を見たのが、初めてだったからかもしれない。
細身の7分丈くらいの青いジーパンに、白いTシャツに色んな絵の具をそのままぶっかけたような感じの虹に近い
色合いだった。
制服とはちがい、なんか新鮮さが出てる感じがする。

「じゃ、行こっか。」
「お、おう、、」
底の高いサンダルを、歩きづらそうにふらふらと歩くみゆの後をついていく。
どこに行くんだろう。

864 :756 ◆GE2PcchFec :2006/08/18(金) 23:55:04 ID:oqqrsnp/
>>846

「おおっ、、、すごい!いやっ!ちかっい!」
ガラス越しにでかい魚が近づいてきたことにビクるみゆ。
「これ、目でかすぎじゃなあい??」
「う、うん確かにでかいね、、」
適当に言葉を返す。
正直、落胆と安堵の両方の気持ちが入り混じっている。
「どうしたの??、元気ないね、おなか痛いとか?」
「ううん、別に。」
「そうっ・・。」
この水族館に来るとは、思いもしなかった。
ってか期待はずれにも、ほどがある。
家からほんと目と鼻の先にあるくらいの懐かしい水族館で、正直、こんなトコにきても
盛り上がることなんて絶対ない。
地元の人は、ほとんど来ることはなく、観光客がぱらぱらと来る程度だ。
みゆは、なぜここを選んだろう。
東京に行ってミッキーに会いたい!とか、もしこれがデートというものだったなら、言ってほしかった。
そっちのがデートらしく感じる。
「用事ってこのことかよ、、」
とつい小さな声でつぶやいてしまった。
それが聞こえたらしく、みゆが
「んっ?」
とこっちを見る。見つめられているのに焦って、早口で
「あっ、あのさ、上でなんか休憩しよっ。」
もうすでに飽きたのを若干隠し、提案した。
みゆは、まだ、サメを見ていないからもうちょっと後にしようと、嫌がったが
エスカレーターに乗ろうとする俺をみて、あきらめて、ついてきた。


867 :756 ◆GE2PcchFec :2006/08/19(土) 00:27:23 ID:zwDOc4mD
>>864

屋上に上がると、ビーチパラソルが、無数にある。
潮の香りが強い。
が、それにしても、ほとんど、客はいない。
一周見回してみると、前から全然変わっていないようだ。
今にもつぶれそうな売店も健在だった。
「おれ、ソフトクリーム買ってきてあげるよ」
「うん、、」
小走りで向かう。
無人のビーチパラソルの隙間から、わずかに入る日差しが強く感じる。
「すいません、バニラソフトクリーム2つ」
「・・はいよ。」
愛想の悪いおじさんが、めんどくさそうに立ち上がり、作り始める。
ちらっとみゆを見る。
一番端っこで、少し緊張しながら座っていた。
手に指でなにかをなぞってる。
あっ、人という字を飲み込んだ。
あいつなにやってんだろ。

868 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/19(土) 00:28:26 ID:zwDOc4mD
「ほら、やるよ」
ひとつ、ソフトクリームをみゆに手渡す。
「あっ、ありがと」
みゆは強張って、微笑んだ。
とりあえず、この体内温度を下げるため、ソフトクリームをほおばった。
みゆも、ひとくち遠慮がちになめた。
ちらりとこちらをみたかと思うと、下をみた。
もうじれったくなった。
「なに!?」
「・・・・あのさ・・」
「うん。」
「あっ、やっぱいいいよ・・・。」
みゆをじーっと睨む俺。
みゆも居心地が悪そうにこちらを見つめて話し始めた。

871 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/19(土) 00:43:13 ID:zwDOc4mD
>>868

「キミは、なんで・・・なんで・・・さ・・。」
語尾が所々震えている。
うつむいてなにかを必死でこらえようとしている。
「ん?どーした?早く言えってー」
少し気持ちが焦る。告白だろうか。
カキ氷機の音がぐおんぐおんとやけにうるさい。
今だけ、止めてくれ。
相変わらず潮の匂いが強く、鼻がつーんと痛い。
しかし、次の言葉がなにかをすべてクリティカルとなる。
みゆが顔をあげるとそこには、ここの状態では不釣合いの表情があった。
なんで、一瞬、思う。
涙がとめどなく流れてる。が、なぜかそこには作った笑顔が浮かぶ。
みゆが口走る。
「・・・お母さん・・元気に・・して・・る?」



そのとき、波の音とともに、冷たい、だけど、心地よい風が頬を流れたんだ。




881 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/19(土) 16:38:20 ID:mHSHbtxo
>>871
「・・・・・・・・・・。」
沈黙が続く。
ひたひたと手に冷たいものがあたる。
溶けたソフトクリームだ。
ぽとぽとと暑さに負けて、こうやって形が崩されていくのだ。



882 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/19(土) 16:39:33 ID:mHSHbtxo
みゆと見つめあって、もうどれくらい経つだろう。
今にも、泣きじゃくりそうな目でこちらを見つづける。
みゆのソフトクリームの大きな塊が、ぼとりと大きな音をたてて、地面に落ちた。
よし、待て、落ち着け、自分の中で我を取り戻そうと必死に思考回路を駆使する。
そもそも、こいつはいつから知っていたんだろう。
ずいぶん、前からか?誰から聞いた?
今日のこのイベントも、これを言うために作り上げたのか?
ダメだ。これ以上はもう壊れそうな予感がする。
最後の力をふりしぼり、沈黙を切り裂いた。
「なんで、、」
みゆは、俺の言葉をふさいだ。
「なんでよ!!なんで・・そんなことしたのよ!ひとごろし!」
唖然とする。口が半開きで動こうとしない。これは確実大ダメージ。
しかし、それよりも、みゆの顔のがひどかった。
目を丸くさせ大きく震える手で口をふさぐ。
わかってる、わかってるよ。勢いで言ってしまったんだ。
みゆは、そんなことを言うコじゃない。
わかってるけど、再起不能になるのにふさわしい言葉だった。
ついに、みゆは泣き始めた。
声をあげながら、だけど、それを必死におさえて。
もう見てられなかった。
混乱が続く。いつものフラッシュバックが脳裏に再生されはじめた。
まずい。


883 :765 ◆GE2PcchFec :2006/08/19(土) 16:40:07 ID:mHSHbtxo
立ち上がると、フラッと目まいがする。
だが、それを、かき消そうと、出口へ向かって思いっきり走り始めた。
帰るんだ。もういい。疲れたんだ。
どかどかと椅子を蹴飛ばしてしまい、一度大きく転倒する。
ゆっくりと、立ち上がるとヨロヨロとまた出口の方向へ向かった。
みゆが、泣きながら、何か、言葉を発するが、もう聞き取れない。
中のエレベーターを使い、なんとか水族館を抜け出す。
人はほとんどいない。みゆの選択は正しかった。
こんな姿を見られなくて済む。
電車を乗れば、家はもうすぐ、大丈夫だ。
大丈夫だ。

次スレへ続く


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送